大田市の山村留学事業は、自然体験活動に30年以上のノウハウをもち、山村留学事業を創設した団体、(公財)育てる会の協力を得て実施しており、子どもたちに対する指導も、同団体の指導理念を尊重しています。自然との深いふれあいや、厳しい自然に挑戦してみることによって、子ども自身の内面に潜むさまざまな可能性を引き出し、それを一人ひとりの子どもの中に定着させることをねらいとしています。

 目指す子ども像は、“「僕・私はこれをしたいんだ」と言える子ども”であり、“生き生きと生きている子ども”です。

 (公財)育てる会が実施している自然体験活動は、「魚のつかみ取り」など、レジャー的な色彩の濃い活動とは根本的に異なります。子どもたちの今日的問題点を分析しつつ、常に、それに対応する有効な教育活動を創出しながら進められています。

(公財)育てる会の指導理念の概略

◇基本的生活習慣の習得と欲求不満耐性をつけること

 子どもたちは、思いっきり自由な活動しようと心待ちにしています。しかし、短期間といえども、子どもたちは異年齢の集団生活を体験することになります。集団で楽しい活動をするためには、起床・食事・入浴の仕方・掃除・挨拶など基本的生活習慣の習得が前提となることを指導します。また、活動場所への往復(広島方面と大田市の往復、市内の山と海の往復)など長距離移動する場合を除き、自動車は使用しないようにしています。子どもが自ら体を動かし自然に触れる機会を奪っている自動車、金銭、ジュースやスナック菓子などの間食、テレビやテレビゲーム類を排除し、子どもたちに我慢することの大切さを指導します。その上に築かれた達成感は、子どもたちにとって忘れられないものになることでしょう。

◇指導者は子どもたちの後ろに立つ

 指導者は、子どもたちの前に立って彼らを無理やり引き回すのではなく、常に子どもたちの後ろに立つこと。これが指導者の基本姿勢です。これは放任とは根本的に異なります。彼らを後から見守りながら興味と意欲を駆り立て、達成感を味わうことができるように配慮します。また、子どもたちを引き回す一因になりやすい「時間から時間を追うスケジュール中心の活動」を出来る限り排除します。活動中、子どもたちが興味を持ったものがあれば、臨機応変にプログラムを組み替え、さらに意欲を駆り立てるように配慮します。

◇きめ細かい指導・報告

 参加した子どもたちのほとんどは、親元から離れ一様に開放的な気分になります。そのせいでしょうか、平素の様子からはとても想像できないほど、嬉々として活動に熱中する子どもが多いようです。子どもたちがどんな活動をし、その時々にどう感じたのか。子どもたちが毎日つける日記とそれに対する指導者の返事、指導者から保護者への活動報告、活動写真・全体報告書の郵送などを行います。それらを通じて、子どもたちに今必要なものは何かを共に考えていきたいと思います。

◇自然の楽しさを知らない子どもには自然体験の動機づけ活動

 子どもたちを自然の中に放り出し「さあ、自由に活動してみよう」と言っても、どうしていいのか分からない子どもたちが増えています。これは、幼児期からの生い立ちの中で、遊びの経験が欠落していることが一因になっているとも云われています。自然の中で、思いきり体を動かすことの喜びを知らない子どもたちに対しては、自然体験への動機付けとして、さまざまな集団体験活動(基本的自然体験活動)を実施しています。

◇自然の楽しさを知った子どもには個別体験活動

 基本的自然体験活動を体験し、自然の楽しさを知った子どもや、あるいは既に自然の活動に興味を持っている子どもには、できるだけその子どもの興味を尊重し、その子どものやりたい活動を「自由」にさせるように心掛けています。自分の興味に基づいて、それに意欲的に取り組む子ども、つまり「僕・私はこれをしたいんだ」と言える子どもが目指す子ども像です。

◇「自由」とは

 子どもの「自由」とは、子どもが自分の個性・特性に基づいた課題を、自主的・意欲的に追求することをいいます。この場合、その「自由」を可能にする個々の子どもの能力、つまり「自由」を駆使できる能力が問われなくてはなりません。この能力なしに「自由」は実現しません。この能力をつけるような指導をしないで、いたずらに「自由に活動しなさい」と言うのは放任に等しいと言えます。子どもに「自由」を与えるには、その前段階でなされなければならない、もっともっと厳しい教育過程があるはずです。それがあってこそ、初めて子どもに「自由」が具現すると考えています。